タンノイのエジンバラ

作家・長島有の短編集。

「タンノイのエジンバラ

失業保険で生活している「俺」は、職安で一度見かけた事のある隣人の女から、子供を預かって欲しいと言われ、手に一万円札を握らされ、女はすぐにどこかへ行ってしまった。残された「俺」と女の子の奇妙な一日の物語。

結構短い内容だけど、現代の暗さとか、現実の厳しさとかきちんと描かれていて、とてもせつなくなった。


「夜のあぐら」

姉と弟がいる「私」は、末期がんの父の様子を見るため、大晦日に、兄弟3人で父の家へ行くことに。そこには父の愛人のミドリさんがいて、微妙な角質に戸惑っている。
とうとう父の病状が悪化し、手術をする事に。手術当日、見舞いに来ていたのはミドリさんの他に、さらなる愛人が来ていた。実家の家だけは相続しようと、父が入院している最中に、「私」と姉で、実家へ忍び込み、権利書が入っている金庫を盗もうとするが・・・。

複雑な家族環境の中で、離婚し、子連れでWEBデザイナーをしている姉、高校中退し、一度も働いた事がなく、父のすねをかじって生活している弟、そして喫茶店の厨房でアルバイトをしている「私」。それぞれ、個性は濃くないんだけど、惹きつけられる3人でした。


バルセロナの印象」

離婚した姉を励まそうと、「僕」と妻が姉をスペイン・バルセロナへと旅行へ誘う。バルセロナ旅行を舞台に、姉と「僕」とが少し向き合える内容。

スペインの情景が目に浮かんで、思わず行きたくなります。


「三十歳」

ピアノ講師をしていたが、生徒と不倫関係になり、相手の家族にバレて、ピアノ講師をやめ、今はパチンコ屋でアルバイトをしている秋子。脳梗塞で倒れた母から譲り受けたグランドピアノの下を寝床にしている。パチンコ屋で一緒にアルバイトをしている安藤と関係を持ち始めるが・・・。

4編の中で一番長い作品。ぽっかり心に穴が空いていて、なんだか無関心な秋子に、なんとなく共感してしまう自分がいる。

全体の作品を通して、登場人物全員がかなりの不完全な個人として描かれていて、何か問題を抱えていたり、無気力・無関心だったり、でも生きていく強さも持っている。

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『タンノイのエジンバラ』:2006年1月10日第1刷 著者:長島有 発行所:株式会社文藝春秋